ごみ減量や不法投棄自粛など望ましい行動をいざなう仕掛けやメッセージを込めた啓発ツールとして、地方自治体のごみ担当部局が近ごろナッジ(nudge)に関心を寄せています。ナッジとは「ひじで軽くつつく」の意、転じて「そっと後押しする」こと。人の心理に働きかける、ほんの少しの工夫、それが行動経済学でいうナッジです。
この人の心理に働きかける手法は、かなり以前から廃棄物行政において用いられてきました。かれこれ20年近く前、私が実施した自治体アンケート調査の中で不法投棄対策について尋ねたところ、北海道の自治体から「不法投棄多発地点に職員手製の鳥居を設置したら、投棄行為が顕著に減少した」旨の回答が寄せられたので、写真(A)の提供を依頼したことがありました。鳥居の近くにごみを投棄したら神様のバチが当たる、という心理が働き投棄行為を思いとどまらせたようです。
最近東京都心部の特別区が優良事業所の選定にあたって実施した訪問調査に同行させてもらったときにも、ナッジの活用に思い至りました。訪問先ビルのオフィスフロアーの一角に置かれたペットボトル回収箱(写真B)。その前部の目立つところにキャップ回収容器が設置されていました。ペットボトルを回収箱に投入するとき必ず目に入るから、キャップの回収への気付き効果は大きいはずです。
しかし、気付きが必ずキャップ分別行動につながるとは限りません。もしキャップ回収容器に取り外されたキャップが1個も入っていなかったなら、誰も分別していないから自分も分別なしでと思う人が出るかもしれません。キャップ回収容器にそこそこキャップが入っていれば、他の社員がきちんと分別しているから自分もという心理が働き、分別行動がいざなわれるはずです。ナッジを利かすなら、キャップ回収容器がいっぱいになり中身をビル全体のごみ保管場所に移すとき、一部のキャップをあえて容器に残しておくのが正解ということになります。
【写真A】 不法投棄者の心理に働きかける鳥居
【写真B】 ペットボトル回収箱とキャップ回収容器
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